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AMS 学生プロジェクト 活動理念

ー芸術とは何か、どのように作られ、私たちに何をもたらすのかー

これらは素朴であると同時に、非常に頭を悩ませる問いでもあります。

芸術を定義しようとする者、それに基づいた分析的主張を試みる者、情動に突き動かされ作品を制作する者は、皆こうした問いに頭を悩ませながらも、同時に魅了されているのです。

 

この問いが非常に複雑かつ魅力的である理由はいくつか考えられます。

まず、芸術は古い歴史を持つものです。現生人類の最古の記録はおよそ19万年前とされていますが、そこまで古くはないものの、今から約7~10万年前には赤土を用いた顔料の製造、穴のあいた装身具用の貝殻、抽象的な作品などが存在していました。これらからは必ずしも使うことだけを目的としたわけではない、芸術的意図や洗練された表現の痕跡が伺えます。
 

第二の理由として、芸術の多様性が挙げられます。各人が「何を芸術とみなすか」に関する独自の定義・基準を持つことから、美的体験は極めて個人的なものになり得ます。美的経験や作品に共通する普遍的特徴に学術的関心が集まる一方で、私たちが当たり前に考える芸術の概念に芸術家や研究者は一石を投じ続けています。ホルムアルデヒドで満たされたガラス容器内でサメを展示した芸術家、人類が普遍的に不協和音よりも協和音を好むわけではない、という証拠を発見した研究者らは,そうした挑戦者たちのごく一部の例に過ぎません。
 

そして第三に、芸術は人間の本性に関わります。科学者による実証を待たずとも、芸術を鑑賞する際に体内で何かが起こっていること、そして芸術作品を創る際には何かが起こる必要があることを、私たちは知っています。実際に、神経学的損傷はこれらのプロセスの両方に様々な形で影響を及ぼします。

 

これらすべての理由を考慮すると、少なくとも暫定的には、芸術と人間そのものとの間には根源的な連関が存在すると結論づけられるでしょう。ではこのような「根源的な連関」を曖昧で漠然とした方法を用いることなく捉え、そして考察するにはどうしたら良いでしょうか。いかにして芸術と人間存在の結びつきを明確に示し、美的体験をより豊かで力強いものにできるでしょうか。

 

私たちは、「科学」が役立つと考えています。科学の力を借りれば、目に見えないアイデアや音を画像や数字といった目に見える形に変換することができます。このような手法は、芸術的体験をしているとき私たちの脳で、身体で何が起こっているのかをより明確に理解する助けとなります。芸術と科学、特に医学を繋ぐこの「架け橋」は、たとえば科学の発展に役立つものとなります。というのも、芸術体験において顕著に観察されるような意識的経験や感情の構造的・機能的な根幹を理解することが、科学の最終的な目標の一つだからです。芸術家の技術が科学的な視点から「再発見」されることもあります。 また、もし芸術が人間の本質の基礎をなすものであるなら、芸術の力で病気を治すことすらできるかもしれません。

 

しかし、それだけではありません。この「架け橋」は、芸術家においても有益であるはずです。芸術家は科学の知識を利用して自分と世界、またそれらの関係をよりよく理解したり、身体をより良くコントロールしたりすることが可能になるのみならず、創造的視野を広げることすらできるはずです。 アートセラピーが科学的に確立されれば、芸術家がスキルを活かせる機会はますます増えていくことでしょう。そしてなにより,芸術の最大のテーマの一つである「われわれ」についての洞察を深めることができれば,芸術の可能性をこれまでよりも多角的に,より深く探求することができるでしょう。

AMS学生プロジェクトは、まさしくこの「芸術と科学の交差点」上に位置するものです。それぞれバックグラウンドも将来のキャリアも異なるメンバーですが、全員が芸術と医学(そして科学全般)の基礎と応用に強い関心を持っています。そうした多様性こそ強みだと考えています。芸術や科学に関する知識を学び共有し、徹底した議論、経験と分析、そして創造的な試みを通して、芸術と科学の融合点を探究していきます。
 

2019年4月
AMS学生プロジェクト創設 東京大学医学部卒 増田康隆 

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