AMSS Memoirs
2021. 5. 23
『なぜ脳はアートがわかるのか』を読む(5)
カンデル輪読会 第 8〜11 回で扱った議題や行われた議論,それを踏まえた考察をまとめる。
『なぜ脳はアートがわかるのか』-第7,8章
P,189〜123では、「ポロックとイーゼルの解体」について、主にポロックを中心に解説している。そもそもポロックという人物が一体どういう人間なのか、そしてポロックとイーゼルの関係とは何なのか。今一度、ポロックについて知ってもらう勉強会を行った。
まずポロックのプロフィールからポロックをここまで引っ張ってきたアーティストで妻であるリークラズナーについて、そしてポロックの生涯から傑作を作り上げるまでに関わったあらゆるアートシーンやポロックに影響を与えた人物について、キーポイントをいくつか挙げ、本書の中ではさらっと触れられている所なども含め掘り下げて解説し、ポロックの初期の作品から後期の作品までを追っていった。そして最後に、ポロックのオールオーヴァー様式のきっかけになったとも言われているにも関わらず、女性であり、社会的な作品を制作し続けたことなどが原因でニューヨークのアートシーンから消えてしまった女性画家、ジャネット・ソーベルについても解説した。
というのも、時代は世界恐慌から第二次世界大戦が勃発していたそんな中、アートシーンもナチスドイツの独裁政治から己の自由を守るため逃れようとアメリカに亡命してきたヨーロッパのアーティスト達と共に移っていた。まさにど真ん中に生きていたポロックは、戦禍から離れたヨーロッパのアーティスト達の交流をきっかけに当時最先端だったモダニズム思考やシュルレアリスムを知り、そしてピカソと出会う。これらの奇跡とも呼べる数々の出会いこそがポロックをイーゼル画解体と向かわせるのである。
以下に重要なスライドを再掲する。
(小坂によるAMSS学生発表『ジャクソン・ポロック』(2020/10/28) より引用)
『なぜ脳はアートがわかるのか』-第9章
第9章では、マーク・ロスコとモーリス・ルイスの二人について紹介していたため、2回に分け、それぞれの人物像や生涯を辿った。具体的には、どういう経緯で「色へ還元する」という作風に至ったかを第10章の内容に繋げるような形で解説した。当時のニューヨーク派のアートシーンの片鱗を知ってもらえるような勉強会になったと思う。
マーク・ロスコは、ロシア出身でユダヤ系人、ユダヤ人迫害を恐れアメリカに移住し、20歳で画家を志した。ポロック同様、WPAの美術計画に参加し、様々なアーティストや素材を知ることによって後のカラーフィールド作品やシーグラム壁画、ロスコチャペルなどの傑作に多大なる影響を与えることとなる。前期、中期、後期、晩年と作品を途中で紹介しながら色が還元されていく流れを追っていった。
(小坂によるAMSS学生発表『ロスコ〜具象から色の抽象へ〜』(2020/12/27) より引用)
モーリス・ルイスでは最初に、ロスコの回で疑問として上がった日本の文化の影響に関しての質問を受けていたので、アメリカの戦時中に鈴木大拙によって輸入された「禅思想」を紹介し、それが平面のみならず、アメリカ国民の生活やファッションに浸透していき、ヒッピー文化にも触れながら禅と芸術の関係性について簡単に解説した。
その後はロスコ同様、生い立ちからWPA 政策とニューヨーク派との関係性を解説し、ニューヨーク唯一の女性作家と呼ばれるフランケンサーラーの作品やルイスとの関係を見ていきながら、最後にルイスのスタイルになっていく流れを話し、そして彼にとっての絵画と何かについて生涯を通しメンバーで考察し意見交換を交わした。
(小坂によるAMSS学生発表『モーリス・ルイス』(2021/1/8) より引用)
最後は色の持つ効果や色は脳に影響を耐えるということを認識し、バーネット・ニューマンの言葉 を引用して色の還元についてのこの章をまとめた。
私たちは、崇高なものであれ、美しいものであれ、時代
遅れのイメージとの関連を呼び起こす小道具や仕掛けを
含まないリアルなイメージを生み出しているのだ。(…)
私たちが創造するイメージは、リアルで具体的な自明の
啓示であり、それを見る者は誰であれ、懐古の念を呼び
覚ます歴史のメガネをかけていなくても理解することが
できる。
勉強会のなかで触れた抽象画家を列挙すると次のようになる。
小坂 初穂,司馬 康